ラベンダー花穂
途中、何度か書くのが面倒になり、このまま有耶無耶にして止めてしまおうと思いましたが、何とか最終回まで漕ぎつけました。 笑
もう少しですので、お付き合い下さい。
写真.1
今回は、ラベンダーやネロリ、ローズウッドなどに含まれるリナロールを例にして、話しを進めていきたいと思います。
このリナロールにも右回りと、左回りの光学異性体が在り、d,l や (S),(R)の記号を使い区別します。
リナロールは、植物によって含まれる形態が異なります。ラベンダーやネロリに含まれているリナロールと、ローズウッドに含まれているリナロールでは、その種類や含有比率が異なりますので、使い方も違ってきます。
そのために、精油中にどのようなリナロールが、どんな比率で入っているかを知らなければなりません。
セーヌ川 パリ
d,(R)は右回り、l, (S)は 左回りを表しますので、リナロールの前に、d や(S)が付けば、右回りのリナロールで、リナロールの前に、l や(R)が付けば、左回りのリナロールとなります。
① d -リナロール、 (R) -リナロール ....右回り
② l -リナロール、 (S) -リナロール ....左回り
d,l や(R),(S)は、何方を使っても表す意味は同じですので、ここからは、d,l を使い話しを進めていきます。
ネロリ
前回、薬や香りのd-,l-をどう区別するかには、旋光計を使用する話をしました。
この機器で、d-リナロールとl -リナロールを測定すると、d-リナロールは+20.1、l -リナロールは-20.1という値となります。
d-リナロールの旋光度は +20.1.......右回り
l -リナロールの旋光度は -20.1....... 左回り
旋光度から見るとd-リナロールとl -リナロールでは、真逆の数値となります。
また、合成リナロールの旋光度は 0 となります。
この理由は、リナロールを合成して作った場合 d-リナロールとl -リナロールが、ほぼ等量できるため、旋光度は相殺して0となります。これが合成か天然かを見極める一つの指標となります。
バラ畑
最近では、不斉合成という手法で、右か左の片方だけを作る技術が進歩してきました。薬の分野では、この技術が多く使われていますが、香料に関しては製造コストが高いため、まだ、それほど行われていません。
d-体、l -体とでは、リナロールの効果や香りも変わります。d-リナロールは、神経強壮作用、疲労回復作用がありますが、l -リナロールは鎮静作用、血圧降下作用、抗不安作用を持ちます。
香りでは、d-リナロールはフルーティ、l -リナロールはラベンダー様のハーバルな香りです。
d-リナロール.......中枢神経覚醒作用
l-リナロール........中枢神経抑制作用
一般的に、d-リナロールを含む精油には、ローズウッドやコリアンダーがあり、l -リナロールを含む精油にははラベンダーやネロリなどがあります。
ローズウッドは、このd,l の両方が混ざっていたり、木の種類によって、この比率も変わりますので、精油の旋光度を実際に計ってみないと何とも言えません。
バラ畑
次に精油中に含まれる異性体の比率と旋光度との関係をお話します。
下のものは、ローズウッド精油中のリナロール比率による旋光度の関係を示したものです。
1)ローズウッドA
d-リナロール85% l -リナロール15% +13
2)ローズウッドB
d-リナロール 35% l - リナロール65% -9
d-リナロールとl -リナロールでは効能、効果が違いますので、精油を使用する場合には、精油中に何のリナロールが、どの位の割合で含まれているのかを知る必要があります。
図.1リナロール C10H18O分子量154.25g/mol
上の図.1がリナロールの構造式になります。図.1の構造式の中に「✴」の印を付けましたが、この場所が不斉炭素と呼ばれる場所になります。ここを中心として右回りのリナロールと左回りのリナロールが存在することになります。
図.1中にある「✴」印の部分が、下の写真.2の中にある黒色(炭素)のブロックにあたります。見比べてみて下さい。
写真.2 光学異性体: 鏡像体関係
この写真.2に図.1のリナロールを立体的に書き込むとこんな感じになります。
先ほど、iPhoneからアプリをダウンロードして、指で書き込みましたが、これは少しヒドイですね。 次回は専用のペンを買ってきます。
写真.2-2 光学異性体 : 鏡像体関係
こんな感じです。分かりますでしょうか
写真中の黒色のブロックからは、4本の手が出ていますが、その手全てに違うものがついた場合、光学異性体が存在します。
写真では、赤ブロック、緑ブロック、青ブロック、水色ブロックと全て違うものが付いていますので、この炭素は不斉炭素と呼ばれ、この炭素を中心に光学異性体が存在することになります。
次に、写真.2と写真.3を比べてみて下さい。
写真.3 非光学異性体 : 非鏡像体関係
この違いに気づきましたか。
写真.2 の「左」と「右」は、違う分子ですので、二つは鏡像体関係であり、光学異性体ですが、下の写真.3の「左」と「右」は、同じ分子ですので、この二つは鏡像体関係ではなく、光学異性体でありません。
光学異性体は、右手と左手の関係に似ており、二つは似ているが、実は性質や役割が全く違うという物となります。
バラ畑 夏
この異性体を理解できませんと、本当の意味で香りを理解したことになりませんし、香りのプロとして働くためには、立体異性体への理解が必要となります。是非、理解を深めてみてください。
バラ畑 冬
そして、この異性体は、自然界にある法則を理解するのには、とても良い教材となります。目に見えない、微小な世界の法則を理解することで、相対世界である、目に見える世界への理解も深まります。
そして、香りや薬の世界の楽しさも広がりますので、是非、チャレンジしてみてください。
最後に質問です。写真.1は鏡像体関係にありますか
ありがとうございました。
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